小児医学から精神分析へ

●小児医学から精神分析へ
ウィニコット臨床論文集
ウィニコット D.W. 著
北山修 監訳
判型: A5
頁数: 448
価格: 7,140円(税込)
ISBN(旧): 【4-7533-0500-7】
ISBN(新):
【9784753305001】
●年を追って進化する思考のプロセス――待望の合本版
目次●
第1部
食欲と情緒障害
設定状況における幼児の観察
児童部門のコンサルテーション
児童期の眼科的な精神神経症
母親の抑うつに対して組織された防衛という観点から見た償い
安全でないことに関連した不安
小児医学における症状の容認:ある病歴
在宅で取り扱われた症例
第2部
躁的防衛
原初の情緒発達
小児医学と精神医学
出生記憶,出生外傷,そして不安
逆転移のなかの憎しみ
情緒発達との関連でみた攻撃性
精神病と子どもの世話
移行対象と移行現象
心とその精神-身体との関係
正常な情緒発達における抑うつポジション
精神分析的設定内での退行のメタサイコロジカルで臨床的な側面 他
監訳者まえがきより●
これは,Donald W. WinnicottのCollected Papers: Through Paediatrics to Psycho-Analysisを訳出したものである。原著のサブタイトル「小児医学を通して精神分析へ」に表わされているように,二重の資格に二股をかけ,その間を生きた彼の人生と思考の過程がうまく表現された臨床論文集である。今回の再版に当たり,もともと2冊に分けて翻訳したものから,著者が「小児科医として小児科医たちに向かって書いていた」という最初の2本を除いて,精神分析に関わるものをまとめて1冊とした。
諸論文の位置づけは,著者の序文によれば次の通り。第1部における論文は,「小児科医からの発言とみなすことができる。とはいえ,精神分析的な方向づけをもった小児科医からのものである。」そして第2部は「現代の精神分析の理論と実践への私の個人的な寄与である。」
著者は書き方が詩的で曖昧な英文として知られるので,初心者にも研究者に対しても,その全体像がつかみやすくなるよう若干工夫したところがある。例えばマネージメント,パーソナルなど,文脈に応じて別の日本語で訳したものは,ルビなどを用いて原語が分かるようにした。これに巻末に語彙集を付して,パーソナル(個人的,私的)な育児によるパーソナライゼーション(私有化)を通して,パーソン(人格,人物)のパーソナリティ(性格)が生まれる,というような文字面での了解が可能になったと思う。こういう彼の書き方と日常語の使用が,その理解においていかに重要かは,これも最近再版して頂いた拙著『錯覚と脱錯覚』(岩崎学術出版社)に詳しく書いた。
本書は一見簡単そうでいて実は難しく,多くの意味で人間臭い二重性が彼の真骨頂である。そして,60年も前から欲動論や構造論を踏まえて主体の存在と自発的体験に注目していたという,現代の臨床感覚に通じる確かさはこれからも輝きを失うまい。環境問題が毎日の話題になりながら無視され,情報化社会の中で遊びと余裕という文字が撒き散らされる一方,それを楽しむための自己の存在感と現実感のほうが希薄になりつつあるという事実を,彼はまさしく先取りしていた。しかしその中身だけではなく,外と内,我と我でないものの間,つまりここでは読者と著者の間でやりとりを続けながら,読者の側が遊んで個性的な「読み」を発見する読み方もまた貴重なのだ。中身の捉えどころのなさを解く鍵は,その間で愛しそして憎んで,二重性の矛盾をこなす読者に創造してもらう外はない。こうして再び本書が,誤読を恐れぬ読者に, たとえ不器用であっても自分なりの自分らしい思考を可能にする機会となることを願ってやまない。




