自閉症とこころの臨床

●自閉症とこころの臨床
行動の「障碍」から行動による「表現」へ
小林 隆児・原田 理歩 著
判型: 四六
頁数: 240頁
価格: 2,310円(税込)
ISBN(旧):
ISBN(新):
【9784753308071】
刊行年: 2008-06-04
●援助の対象者と援助者との間に生まれるこころの動きを活写する
●目 次
はじめに
第一章 行動の背後にあるもの
第二章 何が「行動障碍」を引き起こすのか
第三章 「行動障碍」に対する関係発達支援の実際
第四章 行動の「障碍」から行動による「表現」へ
第一節 「強度行動障碍」に苦しむ人との出会い
第二節 言葉に乗せられて届くもの
第三節 目には見えにくいものにこそ目を向けていく試み
第五章 行動の「障碍」から「身振り」へ──原初的身振りの発達的意味
初出一覧
おわりに
「おわりに」より■
わが国の児童精神医学の歴史を振り返ってみた時,今日ほど発達障碍に対する世の関心が高まったことはなかったのではないでしょうか。しかし,その契機を考えた時,このような状況の到来をけっして喜んではいられません。子どものこころを理解することが,それを本業としているはずの児童精神科医にとっても一層困難になっていることの表れでもあるからです。
それにしても今日の発達障碍の臨床現場は,混乱の極みといった状況にあるようにみえます。子どもの不可解な行動に触れたら,条件反射的とも思えるほどに発達障碍を頭に描いて理解しようとすることが今では当然のごとく語られています。どのような「障碍」があるかといった見方だけが独り歩きしているのです。今,目の前にいる子どものこころの動きが感じられないのではないかと思える事態を私はさまざまな現場で目の当たりにしてきました。このような事態を招いたひとつの要因は,本書で論じた行動障碍に対する従来の理解のあり方にもあるのではないかと私たちには思われるのです。
私たちが行ってきた関係発達支援は,支援の対象としている人びとのこころの発達のありようを見据えたものでなくてはならないと常々考えてきましたが,そのことを充分に論じることは容易なことではありませんでした。なぜなら人のこころはさほど容易に短期間のうちに変容していくものではないからです。実際の支援を通してそのことを論じるにはどうしてもかなりの時間を要します。
本書は,強度行動障碍を呈した青年期・成人期の自閉症者に対するさつき学園の職員の皆さんによる丁寧できめ細かい援助的関わりを通して,次第に両者の間で関係が深まり,身体を通したコミュニケーションが生まれていった過程を描写しています。経過を読んでまず印象深いのは,原さん,原田さんともに自閉症者に対して身を挺して関わり続ける中で,彼らの行動(障碍)が次第に穏やかなものへと変容し,一見同じような行動であるにもかかわらず,それが両者の間でコミュニケーション的な意味を持ち始めていることです。
このような関係変容を生み出すまでには,おふたりが並々ならぬ忍耐と寛容のこころでもって彼らのこころのありように沿った一貫した対応を心掛けていったことがなによりも大きな力になっているのだと思います。こころの臨床は援助する側の私たち自身の人間性を抜きには考えられないことを痛感させられます。関係発達支援における「関係」とは,まさに援助の対象となっている人びとと私たちとの間に生まれるこころ(気持ち)の動きを最も大切にすることなのです。おふたりの実に素朴な援助姿勢から私たちは学ぶものが多々あるのではないでしょうか。なんといっても本書の醍醐味はおふたりによる援助過程の臨場感あふれる記述と内容にあります。これでやっと『自閉症と行動障害』では十分に語りつくせなかったことをしっかり述べることができたのではないかと思います。




