目次
第1章 さまざまな期待と誕生
第2章 つながりあうこと
第3章 手放すこと
第4章 問題行動を理解することと線引きをすること
第5章 診断,検査,治療,セラピー
第6章 自閉症を持つ幼児を理解すること
第7章 遊びと話すこと
第8章 親,夫婦,そして家族
第9章 きょうだい
第10章 「喜んでいる自分に驚く」
巻末補遺「ようこそオランダへ」
内容説明
本書は,乳幼児精神保健の領域で世界的によく知られた,英国のタビストック・クリニックが刊行してきた「タビストック 子どもの心と発達」シリーズの特別篇とも言える『特別なニーズを持つ子どもを理解する』の全訳です。 「特別なニーズ」という言葉は,わが国では耳慣れない言葉ですが,現在英国では,「障がい」とほぼ同じ意味で使われています。本書は,自閉症,脳性麻痺,身体的障がい,知的障がい,重複障がいなどさまざまな障がいを持つ子どもを育てていく中で親御さんが遭遇する情緒的な問題を,事例を用いながら生き生きと描き出しつつ,こうした子どもの心を理解していく手がかりを示唆していきます。それは問題解決のための処方箋を与えてくれるというよりも,わが子に障がいがあるという現実に衝撃を受け,さらにそれに伴う多くの苦難にうちひしがれ,親としての自信を失っている親御さんたちが,自分たちこそが子どもにとってかけがえのない理解者であり「専門家」であるという,「普通の親」としての自信と喜びを回復していく手助けとなることを目指しています。つまり,本書の最後の心動かされる章で書かれているように,期せずして「イタリア(健常な子)」ではなく「オランダ(障がいを持つ子)」に来たことで「喜んでいる自分に驚く」という経験が起こりうるように援助していると言えるでしょう。 こうしたお子さんを抱えておられる親御さんの中には,本書を読まれ,そこに書かれている英国の親御さんや子どもたちの苦境や悩みが自分たちのそれと見事に重なり,共感を持つとともに,こうした悩みが「自分だけのものでない」だけでなく,国境や文化を超えた普遍的なものであることに幾ばくかの安堵の気持ちが起こる方もいるかもしれません。それらは,「障がい」を告知された時のショックとトラウマ,罪悪感や恥の感覚の問題,「障がい児」ではなく一人の人間である子どものことを知っていき関係をはぐくんでいくこと,子どものできることとできないことを区別して躾や限界設定を適切に行うこと,夫婦関係やきょうだいの問題などかもしれません。障がいを持つ子どもを抱える親御さんが,公園に行って他の親子に会ったり,人に会ったりすることを避けるようになりがちだという記述を読むと,わが国で同じような境遇の親御さんの多くは強い共感の気持ちを抱かれるだろうと想像します。 わが国でも,同じ障がいを持つ子どもを抱える親の会が,いくつかの障がいに関しては作られており,そうした会で悩みや問題を分かち合うということも大切かもしれません。そしてやはり何よりも,診断や治療を行う医療従事者,保健師,保育士,教師など,こうした子どもと親御さんと関わる専門家の間で,本書で描かれているような情緒的な問題への理解を深めていき,必要なサポートを行っていけることが一番大切なように思います。また,場合によっては時間を十分とって継続的に子育て相談を提供したほうがよい親御さんたちもいますが,わが国では,こうした親御さんたちに十分なサポートがまだまだできていないのが現状のように思われます。今後こうした社会的資源がもっと増えていくことが望まれます。そうした意味でも,本書を多くの専門家が手にすることを願っています。 本書はまず障がいを持つ子どもを抱えておられる親御さんのために書かれていますが,何か明快な「答え」や「アドバイス」は提供されていません。しかし,本書を読んでいく中で,少しずつ悩まれていることの解決のヒントや手がかりを得ることができるかもしれませんし,あるいは解決は難しいかもしれないですが子どもや家族に起こっていることを以前より理解できるようになるかもしれません。そして何よりも,こうした子どもを育てていくことに以前よりも希望に満ちた気持ちになっているかもしれません。それが本書の著者のもっとも願っていることでしょう。 【監訳者あとがきより抜粋(平井正三)】
著者情報
P.バートラム 著
平井 正三 監訳
武藤 誠 監訳