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心理臨床への多元的アプローチ

効果的なセラピーの目標・課題・方法

目次

序 文
謝 辞
第1章 多元的アプローチへの導入
第2章 多元的アプローチの基盤
第3章 協働的なセラピー関係の構築
第4章 クライアントの目標:セラピーの出発点
第5章 課題:セラピーの実践の焦点化
第6章 方法:変化を促進するための資源
第7章 実証的研究:多元的なカウンセリングとサイコセラピーを発展させる
第8章 スーパービジョン,トレーニング,継続的専門職能力開発(CPD),サービスの提供:多元的な観点
第9章 ディスカッション:新しいパラダイムに向けて
文 献
付録A あなたのセラピーを最もよいものにするために
付録B セラピーパーソナライゼーションフォーム
付録C 目標フォーム
監訳者あとがき
索 引
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監訳者略歴
末武康弘(すえたけ やすひろ)
1959年 長崎県に生まれる
1989年 筑波大学大学院博士課程教育学研究科満期退学
1989年 女子美術大学芸術学部専任講師,1991年助教授
1992年 明治学院大学文学部専任講師,1993年助教授
1996年 法政大学文学部助教授
2001年 法政大学現代福祉学部助教授
現 在 法政大学現代福祉学部臨床心理学科・大学院人間社会研究科教授,博士(学術)

清水幹夫(しみず みきお)
1944年 東京都に生まれる
1974年 青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻修了
1975年 東京農業大学農学部講師,1985年助教授
1996年 千葉大学教育学部教授
2002年 法政大学現代福祉学部教授
現 在 法政大学名誉教授

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内容説明

【監訳者あとがきより抜粋】パーソンセンタードセラピーや実存的セラピーの若手の旗手として,またカウンセリングにおけるエビデンスベーストの動向に新風を吹き込んでいるクーパーと,ナラティブセラピーの先導的な実践家であり臨床心理学における質的研究のリサーチャーとしても著名なマクレオッドは,この共著によって,カウンセリングやサイコセラピーの分野に革新的な進歩をもたらそうとしている。
 クーパーとマクレオッドによれば,多元的アプローチとは,さまざまなクライアントはさまざまな時点で,さまざまな事柄から利益を得るという考えに基づくものであり,したがってカウンセラーやセラピストは,クライアントがカウンセリングやセラピーに望むことを援助するために,クライアントに協働的にかかわる必要があるとされる。このような観点は,ともすると,クライアントがカウンセリングに求めることよりも,自分が属する特定の流派の理論や方法を優先してしまいがちな,この分野において現在も払拭されていない傾向を見直すために重要なものである。
 しかし,流派よりもクライアントのニーズを尊重するという点だけで言えば,これまでにも折衷的な,あるいは統合的なカウンセリングやサイコセラピーの動向が形成されてきた。多元的アプローチは,折衷的カウンセリングや統合的サイコセラピーとどういった点において異なり,そしてそれらをどのように乗り越えていこうとするのだろうか。その詳細については本書を熟読してもらいたいが,監訳者が注目するポイントをいくつかあげておこう。
 第1に多元的アプローチは,多元論という哲学的基盤をもっている点である。従来の折衷的あるいは統合的なアプローチには確固とした哲学的な背景が希薄で,クライアントの何をどのように理解し,どのように援助を組み立てるのかについて明確な根拠を示すことが難しかった。それゆえ,場合によっては臨床家自身がアイデンティティに混乱を感じたり,寄せ集めの理論や方法によってクライアントを援助してしまうことにもなりかねなかった。多元的アプローチでは,クライアント1人ひとりが異なる変化や前進の方向性に開かれているという哲学的な基盤のうえに立ち,多様な援助を協働的に構築していこうとする。
 第2に多元的アプローチでは,カウンセラーやセラピストがこれまでに学んできた,あるいはアイデンティティをもっている立場を必ずしも捨て去る必要はない,という点である。例えば,世界的なグローバリゼーションの潮流の中で私たちは日本人であることをすべて捨て去らなくてはならないのかといえば,政治的な多元論からは,そうでないと言える。むしろ,日本人であることの意味を深く掘り下げるほど,他文化や他民族への真摯な理解や尊重は深まるはずである。同様に多元的アプローチでは,パーソンセンタードセラピーであれ精神力動的セラピーであれ,自らが学び実践してきた立場の理論や方法を深く掘り下げつつ,同時に1人ひとりのクライアントとの協働の中で新たに必要とされる理論や方法について真摯な態度で学び,自らのエッジやウイングを広げていこうとするのである。
 そして第3に,これは本書の最大の特徴であるが,目標,課題,方法という明示的なステップによって多元的アプローチを進展させる具体的な枠組みと手続きが示されている点である。私たちは,自分のこれまでの臨床実践をこうした枠組みから見直すこともできるし,この枠組みと手続きを参考にすることで,これからの臨床実践を多元的なものに発展させていくこともできる。おそらく,多元的アプローチが今後カウンセリングやサイコセラピーの分野で豊かな拡がりを見せるようになるためには,本書に提示されている具体的な枠組みや手続きが多くの臨床家に共有され,臨床実践や実証的研究によって検証され,修正されていくことが何よりも重要であろう。
 日本においても本書が1人でも多くの臨床家や学習者の目にとまり,多元的アプローチについての理解や議論が深まっていくことを監訳者たちは願っている。

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