目次
第2章 発達障害はどこまで広がるのか
第3章 発達障害とトラウマ
第4章 統合失調症診断と抗精神病薬による治療をめぐって
第5章 気分障害をめぐる混乱
第6章 気分障害をめぐる誤診のパターン
第7章 少量処方
第8章 EMDRを用いた簡易精神療法
付録1 発達障害の診療のコツ
付録2 パルサーを用いた4セット法による簡易EMDR
内容説明
このような発達障害の見落としとトラウマの見落としが生じる理由は,なんと言ってもカテゴリー診断のみによって治療を組むことが一般化したためであろう。筆者は現在,特に子ども虐待の専門外来を開いているわけではないのに,発達障害と子ども虐待とが掛け算になった症例ばかりを多数診察するようになった。そうしてみると,親の側の治療も併行して行わざるをえない例が非常に増えてきた。実に初診した子どもの3割に達する。この親の側において,精神科への未受診者は実はきわめて少ない。しかもその大半が治療に成功していない。だからこそ併行治療になってしまうのであるが,あたかも難治性の症例の発掘をしているかのような様相を呈して来ているのである。
筆者は一介の臨床児童精神科医であり,向精神薬の専門家でも,精神科薬物療法の専門家でもない。それにもかかわらず,このような本を書くに至った理由はただひとつ,児童の臨床,親の臨床を問わず,現状があまりにも目に余るからである。筆者の経験では,一般に使われている薬の量の遙かに少量の服用で,副作用なく治療的な対応が可能な症例が多い。それは一般に最重症と考えられている症例において逆に多いのである。その理由とは,そのような症例こそが,誤診の対象となるからである。このことを特に臨床の最前線で働く精神科医に(そして小児科医にも)知ってほしい。特に問題は,初回の処方である。一度多めの処方をしてしまうと,安全に減らすには時間をかけなくてはならない。
このような症例が溢れているひとつの理由は,やはり発達障害やトラウマをめぐって,理解と診断が混乱をしているからであろう。この本ではまず,発達障害の診断と治療をめぐる整理を行い,ついで少量処方の実際と,いくつかのパターンに分けられる誤った診断に基づく誤った処方の具体例と,その治療実践について臨床的な経験を提示する。最後に筆者の乏しい知識で思いつく,筆者のような偏った臨床が有効な根拠について試論を行う。この本に記した内容は筆者の臨床経験をまとめたものである。したがってエビデンスのレベルは低く,あくまでもエキスパート・オピニオンである。筆者は後述するように,自分の立場はフィールドワークであり,エビデンスに基づく医療(EBM)の補完がその役割と考えている。(本文より)
著者情報
杉山 登志郎 著