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乳幼児虐待のアセスメントと支援

目次

出版によせて 奥山眞紀子
第Ⅰ部 乳幼児虐待の特徴と対応に必要な視点
 第1章 情動ストレスによる虐待の脳に与える影響 友田明美
 第2章 乳幼児-養育者の関係性の評価 青木 豊・福榮太郎
 第3章 アタッチメントの障害――虐待が乳幼児に与える特異的病理 ① 青木 豊・佐藤篤司
 第4章 心的外傷後ストレス障害――虐待が乳幼児に与える特異的病理 ② 青木 豊・吉松奈央
 第5章 乳幼児揺さぶられ症候群――乳幼児期に特異な虐待の形態 山田不二子
第Ⅱ部 乳幼児虐待への支援と治療の実際
 第6章 アタッチメントに基づく親子関係支援:サークル・オブ・セキュリティ・プログラム――在宅での支援・治療 ① 北川 恵
 第7章 乳幼児-親心理療法――在宅での支援・治療 ② 青木 豊
 第8章 相互交渉ガイダンス――在宅での支援・治療 ③ 青木 豊
 第9章 アタッチメント・プログラム――施設での支援・治療 ① 青木 豊・阿部慎吾・南山今日子
 第10章 アタッチメント・ベイスト・プログラム――施設での支援・治療 ② 森田展彰・徳山美知代
 第11章 トラウマとアタッチメントに焦点を当てた心理療法――施設での支援・治療 ③ 西澤 哲
 第12章 乳幼児虐待における里親支援 御園生直美
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青木 豊(あおき ゆたか)
1985年国立山口大学医学部卒業。精神科医・医学博士。2003年まで,東海大学医学部精神科学教室に所属。1996-1998年ルイジアナ州立大学精神科にて,乳幼児精神保健の専門家になるためのハリスフェローシップを取得。1998-1999年チューレイン大学精神科にてフルタイム乳幼児研究員。帰国後,相州メンタルクリニック中町診療所院長を経て相州乳幼児家族心療センター(厚木心療クリニック付属)センター長,目白大学人間学部子ども学科および同大学院生涯福祉研究科教授。NPO子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク理事,東海大学医学部健康科学部非常勤講師。
主要著書:『乳幼児-養育者の関係性:精神療法とアタッチメント』(2012年,福村出版),『障害者保育』(2012年,一藝社,編著),『精神医学の基礎知識』(2007年,誠信書房,分担執筆),『子どもの心の診療シリーズ5 子ども虐待と関連する精神障害』(2008年,中山書店,分担執筆),『虐待を受けた子どものケア・治療』(診断と治療社,2012年,分担執筆),他。

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内容説明

乳幼児虐待にはそれ以降の虐待とくらべて少なくとも3つの特徴があることに気づきます。第1の特徴は,虐待死の確率が高いことです。虐待死の数は平成24年度99名(心中を除くと58名)で週におよそ2人(心中を除くと1人)が亡くなっています。心中を除く死亡児は,0歳の子どもが43%,0~2歳児が67%です。これら統計を,われわれは痛ましいニュースを通じて日々感じさせられています。乳幼児虐待へのアプローチが生命レベルでの緊迫感を持って行われていることがわかります。第2の特徴は,予防的観点から見た,こころの発達に与える影響の大きさです。乳幼児期に虐待された方が,それ以降に虐待された子どもたちより,その後の感情・社会的発達が非適応的であるという研究結果が,多く発表されてきました。また多くの心理学者は,乳幼児期に“こころの基盤”ができると提唱し,神経学者は4,5歳までには大まかな脳の構造とストレスシステムがほぼ完成すると教えてくれます。この時期におこる虐待という過酷な経験が,脳の発達を部分的には歪めさせ(傷つけ),その後のこころの発達に深刻な影響を与えることは不思議ではないかもしれません。虐待臨床に関わってらっしゃる方であれば,「もう少し早く,アプローチできてさえいれば」と感じられることは多いのではないでしょうか? 第3の特徴は,この発達段階の子どもは,より年長の児童よりも自分の具合の悪さ(特に“精神的な”)を「自覚」できる能力に限界があり,さらにはそれを他者に訴えることが難しいという点です。大人も,とても小さな時期において,環境が“こころ”に与える影響を過小評価する傾向があります。「まだO歳だから,親どうしが殴りあっている場にいたところで,何もわかるまい」といったふうにです。いきおい,身体的に深刻な状態に陥り,周りの大人が気づくといった状況以外(この点も多くの乳幼児が虐待死していることを考えると怪しくなります),被虐待乳幼児は社会の支援の手が届かない場所でポツリと生活し続けるかもしれません。以上の3点は,乳幼児虐待が虐待一般の中でも,その発見に目を凝らしながら,切迫感や緊急性をもって取り組まなければならないことを示しています。
では乳幼児虐待に対して,それ以降の虐待を見るその同じ目を凝らしてアプローチしさえすれば,われわれはその目的を果たせるでしょうか? 私はそうではないと思います。というのも乳幼児虐待に対する評価と支援法は,それ以降の虐待に対する評価・支援法とは異なる以下のような特徴があるからです。第1に虐待の多元的評価の際,乳幼児-養育者の関係性の評価が必須となります。第2に虐待特異的な病理が,乳幼児以降と異なった表現型をとります。第3に介入・支援のアプローチには,特殊な要素があります。乳幼児-養育者の関係性そのものに対する治療が必要になる点です。ですから,乳幼児虐待の臨床に取り組むには,児童虐待一般のアプローチに加えて,少なくともこれら3点についての知識や技能を備えておく必要があります。わが国の虐待臨床領域において,まだこれら知識と技能が充分には共有されていないのではないかと思います。
(序文より抜粋)

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