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学生相談室からみた「こころの構造」

〈格子型/放射型人間〉と21世紀の精神病理

目次

はじめに

第Ⅰ部 現代の青年のこころの理解
第1章 学生相談室からみた現代の青年の特徴
第2章  現代の青年のこころの変化──20世紀後半からの変化
第3章 心理学・精神病理学の視点とその歴史
第4章 心理学・精神病理学の視点の再考
第5章  現代人のこころの構造の理解に向けて──格子型人間と放射型人間から

第Ⅱ部 現代青年の自己をめぐる病理をどう理解するか
第1章  解離について──自己と意識の病理をめぐって
第2章  離人症について──自己とその内省の病理をめぐって
第3章  統合失調症症状のもつ意味とその変化──現代の青年の精神病症状の理解に向けて
第4章 現代における自己と意識の病理の理解

第Ⅲ部 現代の青年の不安とうつ
第1章 現代の青年の不安をめぐって
第2章 現代の青年のうつをめぐって
第Ⅳ部 現代の青年のこころの理解とその課題
第1章  格子型人間の時代──自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)とASD(PDD)型自己をめぐって
第2章  現代の青年のこころの理解と対応──青年の心理臨床の方向性をめぐって

附表 心理文化年表
文 献
あとがき
索 引
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広沢正孝(ひろさわ まさたか)
1957年 東京都に生れる
1985年 東北大学医学部卒業 精神医学,精神病理学,社会精神医学専攻
1989年 順天堂大学助手 順天堂大学医学部付属順天堂越谷病院精神科
1996年 同 講師
1998年 順天堂大学医学部付属順天堂医院メンタルクリニック外来医長
現 職 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科教授,同大学さくらキャンパス学生相談室室長
専 攻 精神病理学

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内容説明

筆者はここ10年ばかり,主に大学のキャンパス内にある学生相談室や健康管理室で,多くの青年に接する機会を持ってきた。本書は,そのような診療室の窓から,現代の青年を取り巻く精神医学や心理学の問題を,筆者なりに整理しようと試みたものである。
 現代の青年の精神病理や臨床心理をめぐる困惑は,すでに多くの専門家により語られている。というよりも,時代は常に流れており,その中で青年たちには,絶えず新しい精神病理現象が浮上し,その都度専門家たちが戸惑いを覚え,それぞれの立場から見解を述べてきたのだと思う。しかし多くの臨床家は繰り返し,「この頃の若者のこころはわからない」と述べている。とくに精神科医の立場に立ってみると,自分たちが学んできた精神医学や臨床心理学の理論の常識からは了解できないような現象が,青年の中に生じてきているように思われるのであろう。
 21世紀を迎えた現在,その真の原因はどこにあるのか,一度整理してみる必要があるのかもしれない。
 本書の執筆目的は,主に大学の学生相談室で出会う現代の青年の特徴を通して,青年の精神病理や精神障害を見直してみるという,いささか大胆な試みにある。つまり,たんに精神病理学や臨床心理学的な理解が難しくなった青年像を述べるのではなく,人間がそもそも持っている「こころの構造や機能」の特徴にまで立ち戻って,彼らを理解してみようというものである。またその中で,現代の青年にみられる精神症状や病態を,少しでも納得しやすい形で捉えてみたいと思うのである。
 そのため本書の第Ⅰ部では,まず現代の青年の特徴を列記し,次にこのような特徴をめぐる,過去半世紀の諸家の見解(自己に焦点を当てた心理学,社会学,文化論的解釈の変遷)を確認する。その上で,われわれ臨床家の論点が,知らず知らずのうちに一定の価値観に縛られたものであり,これまで絶対的とみなされてきた「自己の構築や確立」という青年期の課題も,とくにある種の価値観に依拠したものであり得ることを指摘したい。一方で現代という時代が,それへの固執を青年に強いなくなりつつあることを確認したい。
 第Ⅱ部では,現代の青年にみられやすい精神障害ないし精神症状の中でも,自己概念を基盤として議論されてきた精神現象(つまり解離,離人,統合失調症)を取り上げ,それらを特定の価値観にとらわれずに,現代の青年にフィットした形で,その病理の本質の理解を試みる。さらに,診断的には適応障害としか言いようのない現代青年の漠然とした精神現象に関しても,ここで得られた自己の病理の知見を基に見直し,彼らのこころの問題のさらなる理解を試みる。第Ⅲ部では,本来自己概念とは直接の関係のない現象,つまり不安とうつに注目し,それらの本態を明らかにしたうえで,現代の青年における不安やうつをどのように理解すればよいのかを,考え直してみたい。
 最後に第Ⅳ部では,21世紀の現代,とくに注目を浴びている自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)にまず触れ,その本態に迫ったうえで,現代を生きる青年のこころと,高機能ASD者の心理とが錯綜した状態にあることを述べてみたい。その上で,現代の日本の青年の心理や精神病理において,全体として何が見えてきたかをまとめたい。

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