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実践 学生相談の臨床マネージメント

リアルに考えベストを尽くす

目次

 はじめに
第一部 実践の前に
 第一章 学生相談という臨床の場
 第二章 学生相談に必要な精神分析の知識
第二部 実践の中に
 第三章 初回面接──一期一会を基本に
 第四章 オンデマンド心理療法──健康な学生の場合
 第五章  支持的心理療法──精神病、発達障害、パーソナリティ障害を持つ学生
 第六章 学生相談における精神分析的心理療法
 第七章 卒業と卒業後のフォローアップ
第三部 連携──マネージメントの重要な要素
 第八章 医療との連携
 第九章 大学職員(教員、事務)との連携
 第十章 連携の光と影
 おわりに
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細澤 仁(ほそざわ じん)
1963年 栃木県に生まれる
1988年 京都大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒業
1995年 神戸大学医学部医学科卒業
2001年 神戸大学 大学院 医学系研究科 助手
2007年 兵庫教育大学 大学院 学校教育研究科 教授
2010年 椙山女学園大学 人間関係学部 教授
2012年 関西国際大学 人間科学部 教授
専 攻 精神医学,精神分析,臨床心理学
現 職 アイリス心理相談室,フェルマータ・メンタルクリニック

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内容説明

 私は、いくつかの大学において、学生相談業務に関わってきました。締めて十年以上となります。私が面接を行った学生は実数で千人以上いるでしょう。この数字は常勤で学生相談一筋の臨床家と比べればそれほど多い数字ではありませんが、それなりの数ではあると思います。
 学生相談は独特な臨床のフィールドです。心理臨床の中で、それだけでひとつの分野を形成しています。長年に渡り、学生相談を専門にしている臨床家の方々が膨大な知見を積み重ねており、その成果は多数の著作として出版されています。学生相談の基本形はほぼ完成されていると考えてもよさそうです。そして、私は、そのような業績は大変貴重であると共に、学生相談の実践において極めて有用であると考えています。私も随分と参考にさせていただきました。
 それでは本書の意義はどこにあるのでしょうか?このような状況で、まだ言うべきことが残されているのでしょうか?私のような学生相談の専門家とはとても言えない臨床家に有用なことを述べることができるのでしょうか?
 学生相談の基本形はほぼ完成されていると言いました。それは、学生相談における臨床的常識が存在するということを意味します。私は、学生相談の専門家による臨床実践の積み重ねから導かれた臨床的常識に価値があると思っています。常識を否定するつもりはまったくありませんが、心理臨床における常識は、それに拠って立ち、実践するためのドグマではありません。
 人のこころのあり方はさまざまです。学生相談を訪れる学生のニーズは多種多様なので、学生相談に携わる臨床家は、基本的な心理臨床技法について一通り実践できるようでありたいと思います。少なくとも、力動的心理療法と認知行動療法の基本については実践できることが必要です。もちろん、高度に専門的な技法が適応となる事例で、それが自分の専門ではない場合には、学外の専門機関を紹介する必要があります。学生相談は言うなればプライマリケアです。そこで求められる力量は、ジェネラリストとしての力量であって、狭い領域の専門家としての力量ではありません。自分の専門以外の臨床技法を実践できない臨床家には学生相談のセラピストを務めることはできません。
 また、学生相談は、面接室の中だけで完結しないことも多々あるので、セラピストにはマネージメント能力が要求されます。心理療法それ自体よりも、マネージメントが優先されることもよくあります。もちろん、私たちが心理臨床の専門家である以上、私たちが実践するマネージメントは、あくまで心理療法的理解に基づくものであるべきです。マネージメント自体が心理療法的に機能することが理想的です。つまり、学生相談において、セラピストには、現実的に学生や学生を取り巻く環境に働きかけることが求められるのですが、その際、そのマネージメント自体が心理療法的効果を産むように腐心する必要があるということです。単にマネージメントするだけなら、心理療法家ではない教職員でもできます。心理療法として機能するマネージメントを本書では臨床マネージメントと呼びたいと思います。ただし,煩雑さを避けるため、この後、マネージメントとのみ記載します。読者の皆さんにはそこに含まれる心理療法的意味合いについて想いを巡らせていただければ幸いです。
 まとめると、学生相談における心理臨床は、学生相談における臨床的常識を参照しつつ、セラピストなりのマネージメントや心理療法を学生に提供することです。その際に重要なのは、常識に則り臨床実践を行うのではなく、臨床家が自分の頭で考えて、方針を決め、臨床的介入を行うことです。学生相談における常識は、その際に、セラピストの独りよがりを回避するために参照されるべきです。
 本書は臨床のマニュアルではありません。本書の目的は、読者のみなさんが、自分の頭で考えて臨床実践をする際の参照点となることです。読者のみなさんは、本書に記述された私の考えや実践に触れ、それを自分の臨床の参照点としたり、あるいは、触れることで喚起されたこころを持って、みなさんならではの学生相談臨床を行っていただきたいと思います。そして、可能であれば、みなさんの臨床実践の中で生成した考えを私に教えていただきたいと思います。私はみなさんとの対話を希望しています。

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