ホーム > 改訂 精神分析的人格理論の基礎

改訂 精神分析的人格理論の基礎

心理療法を始める前に

目次

はじめに  
第1章 歴史と定義  
1.催眠療法から自由連想へ  
2.現代までの発展  
第2章 構造論  
1.自我,エス,超自我  
2.意識,無意識,前意識(局所論)  
3.超自我とエスについて  
第3章 力動論的観点:自我の諸機能  
1.現実機能  
2.防衛機能  
3.適応機能  
4.対象関係  
5.自律機能  
6.統合機能  
自我機能のまとめ  
第4章 力動論的観点:自我の諸機制  
はじめに  
1.防衛・適応機制  
2.抑 圧  
3.否 認  
4.取り入れと同一化  
5.強迫防衛と強迫性格  
6.隔 離  
7.知性化  
8.合理づけ  
9.反動形成  
10.やり直し  
11.置き換え  
12.投 影  
13.投影性同一視  
14.退 行  
15.昇 華──健康な自我活動  
まとめ  
94
第5章 心の病理と退行(局所論的退行の理論)  
はじめに  
1.退行とは  
2.健康な退行  
3.心理療法と退行  
4.日常生活と退行  
5.投映法と退行  
6.バリントの退行論  
7.さまざまな命名  
第6章 フロイトと自我心理学の発達論  
1.発達論の意義  
2.フロイトの発達論  
第7章 対象関係の発達  
第8章 マーラーの分離-個体化の発達  
はじめに  
1.分離-個体化図式について  
2.正常な自閉期  
3.正常な共生期  
4.分離-個体化期  
5.分化期  
6.練習期  
7.再接近期  
8.再接近期と父親  
9.個体化と情緒的対象恒常性  
10.三層構造の形成  
第9章 スターンの発達論  
1.新生自己感  
2.中核自己感  
3.主観的自己感  
4.言語的自己感  
発達論のまとめ  
第10章 境界性人格構造(パーソナリティの病理)  
1.BPOとBPD  
2.BPOに共通する特徴  
3.原始的防衛機制  
4.境界性人格の発症年齢と社会適応  
5.非特異的な自我の弱さ  
6.再接近期の課題と分裂の構造  
まとめ  

全章のまとめ  

参考文献  
改訂版あとがき
人名索引  
事項索引
--------------------------
馬場 禮子(ばば れいこ)
1934年 東京に生まれる
1958年 慶應義塾大学社会学部研究科心理学専攻・修士課程修了
同 年 慶應義塾大学医学部精神神経科勤務
    同時に三恵病院などにて精神科臨床に従事
1984年 常磐大学人間科学部教授
同 年 中野臨床心理研究室を開設,現在にいたる
1991年 東京都立大学人文学部教授
1997年 放送大学教養学部教授
2005年 山梨英和大学大学院(臨床心理学専攻)教授
現 職 中野臨床心理研究室

このページのトップへ

内容説明

【「はじめに」より】 本書は精神分析的人格理論と人格の病理に関する理論を解説するものです。これまでに数カ所の大学院で講義しながら改訂してきた原稿を基に作成しました。講義を基にすることの利点はいくつかあります。第一に,精神分析理論は,身についた,自分の実感で理解できるものでないと使いものになりません。私はこの理論を学習し始めた初期の頃から,常に自分に引きつけて考え,理解しようとしてきました。自分の体験として理解できない理論は,理解できるまで受け入れない,あらゆる工夫をして自分の生活体験や臨床体験に結びつける,ということを繰り返しながら,本書に記すような理解をして,理論を自分の言葉にしてきました。こうしてきたからこそ,理論が臨床に使えるものになっているのだと思うので,この理解をお伝えしたいのですが,このような理解を説明するのには,書き言葉より話し言葉の方が通じやすいのです。
 第二に,精神分析理論はとかくバラバラの断片として理解されやすいのですが,実はすべては繋がって,有機的に動いている理論なのです。これを繋がったものとして伝えるのは本当に難しく,だからたいていの解説書が断片の集まりのようになっているのだと思います。これを講義で話す時には,何度も同じ話を繰り返して,「前に話したこれは,これとも繋がっていて,こういう関係になっている」と言うことができる,だから話は本より分かりやすいと言われるのです。講義と同じように繰り返したら,本は煩雑になり過ぎて却って分かりにくくなりますが,少しは繰り返しを厭わずに記載した方がよくわかるので,この意味でも講義の形式を使うのは役に立つのです。
 このような理由で講義を基にしてお話ししようと思います。精神分析にはたくさんの用語があって,それを知らないと,本を読んでもさっぱり分からないということになります。用語が多いという理由で精神分析を嫌う人もいます。しかし用語が嫌われるのは,意味が分からないから,自分と結びつかないから,ピンと来ないからなのであって,その生きた意味が分かれば,用語は一言で多くのことを表現する便利なものでもあります。それに精神分析では用語が多いだけに,これを分かることが理解の第一歩になるでしょう。そこで本書は,たくさんの用語の解説を中心に,本を読むための基礎知識をお伝えすることを目指しています。つまり,ごく初歩の,基本のキと言える知識です。
 それにしても,精神分析にはなぜこんなに理論があるのか,精神分析は何故こんなに理論を大切にするのか,と疑問に思われるかも知れません。特に心理臨床家は,ロジャーズの影響などもあって,無心に人と向き合うことが大事であり,理論で理解するのは独りよがりの思い込みに陥ることだとか,感性にゆだねることが大事で,知識を前提にすると感性を弱めるとか,理論や知識を排する考え方が根強くあります。
 しかし,1人の人間が無心さや感性で理解できることはきわめて限られているという事実を受け入れることも大切でしょう。自分には到底追体験できないような人生経験をもっている人や,追体験できないような奇妙な考え方を示す人を理解する時に,たくさんの仮説をもって,これかもしれない,これかもしれないと見当をつけることができると,相手の話すことがある時パッと意味をもって繋がってくることがあるのです。仮説をもつことと,それを一方的に信じて相手に押し付けることとはまったく違います。取りあえずの仮説をもってでも無心に耳を傾けることはできるし,そうしてこそ,相手が大切なことを言った時にパッと理解することができるのです。仮説をたくさんもち,しかしそれを信奉せず,常に相手の表現を受け取り続け,仮説を変更し続ける姿勢をお勧めしたいと思います。
 もう一つ,初めにお伝えしておきたいのは私の立場です。それは基本的に自我心理学の立場だということができます。ですから対象関係論を語るにも,自我心理学の立場から見た,自我心理学に組み込んだ対象関係論になっています。
 フロイトの理論を紹介するにも,その後の自我心理学の観点を加えた理解になっています。そのせいか,欲動論を語るにも,生々しさや熱気をそぎ落とした,こざっぱりしたものになっている気がします。それは私の立場や好みばかりでなく,そうした方が万人に受け入れられやすい,付き合いやすい精神分析になるという思いもあるからです。これが自我心理学的という私の精神分析の特徴でもあり限界でもあるでしょう。
 1冊の本で伝えられることは僅かなものなのです。本書で基礎知識を得た後に,たくさんの著作に出会って,さらなる理解を深めて頂けることを願っています。

このページのトップへ