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認知行動療法と精神分析が出会ったら

こころの臨床達人対談

目次

まえがき(藤山 直樹)
第1章 認知行動療法をめぐって
 認知行動療法のエッセンス
  自己紹介/認知行動療法(CBT)の理念と基本モデル/認知行動療法の歴史/認知行動療法の現在/認知行動療法の基本モデル/認知行動療法の理論と方法/CBTの基本原則とその進め方/事例紹介(CBTの進め方の実際)/CBTの最近の動向(マインドフルネスとスキーマ療法)/スキーマ療法について/CBTの適用の広がり/まとめと今後の展望
 精神分析からみた認知行動療法
  私のCBTというものに対する感覚/スキーマ療法と精神分析/セラピストの情緒や感情の問題/内省の限界/CBTと精神分析のこれから/討論に応えて
 Q&A
第2章 精神分析をめぐって
 精神分析のエッセンス
  自己紹介/私にとっての精神分析/精神分析の設定/精神分析とはどんな実践か
 認知行動療法からみた精神分析
  精神分析家は精神分析を生きる/「夢見る能力」の操作的定義は?/精神分析は最初から「潜る」/壮大な行動実験としての精神分析/自動思考を全部話すことの怖さ/クライアントとセラピストの相性/聴覚的な精神分析と視覚的なCBT/討論に応えて
第3章 認知行動療法と精神分析の対話
 対 談
  認知行動療法と精神分析を対比する/セルフヘルプスキルを手に入れたところがスタート地点/精神分析の適正サイズ/精神分析と精神分析的心理療法の違い/パーソナリティ障害の人との協働活動/セラピーのための地固め/二者関係と三者関係/陰性のものをどう扱うか/プライバシーの水準の違い/自己開示について/自我心理学と認知行動療法/「精神分析的」とは何か/「夢見るワークブック」は可能か/精神分析家はマゾヒストか
 Q&A
あとがき(伊藤絵美)

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内容説明

私の心理士としてのキャリアは、慶應義塾大学文学部の2年生になって所属した心理学研究室から始まっています。この研究室はバリバリの基礎心理学志向で、説明会に出た際、先生方から、「ここは科学的な心理学を追求するところ。実験に次ぐ実験で、統計を使ってレポートを書きまくってもらう。卒論も実験。そのつもりで志望するように」と宣言され、さらに「フロイトとかユングといったことに興味のある人には絶対に来ないでもらいたい」と釘をさされました。私はもともと一年時の一般教養で心理学を取り、人の知覚や認知に多大な興味を抱き、認知心理学を学びたかったので、迷いなく心理学を専攻することにしましたが、「フロイトやユングに興味のある人は来るな」という発言は強烈に心に残り、「そうか、フロイトやユングは心理学ではないのだな。そういった分野には近づかないようにしよう」と思ったことを今でもよく覚えています。
 大学院に進み臨床系の研究室に所属を変えたことで、さまざまな領域のスペシャリストの先生方の講義を受けることができるようになりました。当時慶應大学の医学部におられた小此木啓吾先生が精神分析の講義にいらしてくださっていたのです。しかし「ユングや精神分析には近づくな」という刷り込みを受けていた私は、そして科学的・実証的心理学にどっぷりと馴染んでいた私は、今思えば不幸なことに、小此木先生の講義の内容がさっぱりわからず、何一つ頭と心に入ってこなかったのでした。精神分析は私の中では「過去の遺物」「化石のようなもの」として(これが私の以前の「精神分析スキーマ」です)、そして「私には関係のないもの」として定着してしまったのです。そして私自身は真っ直ぐに、あまりにも真っ直ぐにCBTを追求し続けてきたのでした。
 それから20年以上が経過し、縁あって藤山先生と直接お目にかかりお話をする機会を得ました。待合せ場所は藤山先生のオフィス。ものすごくドキドキしながら原宿のオフィスにお邪魔したことを覚えています。先生の精神分析のオフィスは、間接照明で、素敵なアンティークの調度類が並び、本棚には精神分析の古典的な本がぎっしりと詰まっていました。そして精神分析の世界で最も重要なツールであるカウチが鎮座していました!「おお、これがかのカウチだ!」と私はすっかり感動してしまいました。「過去の遺物」が「目の前の現実」に変わった瞬間です。
 その後藤山先生と食事に出かけ、たった数時間で、「日本の精神分析の重鎮で、ものすごくおっかない先生」だと思い込んでいた先生像(これも私の偏った「藤山直樹先生スキーマ」でした)ががらりと変わり、「楽しく臨床の話ができる先輩」という感じでおつき合いさせてもらうようになったのでした。
 一方でその後藤山先生のご著書を何冊も拝読し、藤山先生の語る精神分析の言葉や文章が、あまりにもスイスイと、そして同時にグイグイと、私の頭と心に真っ直ぐに入ってくることに驚きました。おそらく藤山先生の言葉だからこそ、というのと、臨床実践を始めて20年以上経ってやっと私が精神分析を理解する素地を得たから、というのと、二つの理由があるのだと思います。そのおかげで、実証とか科学とか操作的定義とかエビデンスとか、そういったこととは別の次元でも、私たちは人の心を考えることができるし、それはたいそう意味のあることだ、ということがようやくわかりかけてきたのです。精神分析はその歴史のなかで、そういう営みを脈々と続けてきていること、そして私がずっと学んできた心理学とは別の角度から人の心に関する知見を積み重ねてきていることが、今になって実感できるようになりました。
 そんな中でいただいたのが今回のパネルディスカッションの企画です。藤山先生と対話するのがこの私では失礼なのではないかと悩みましたが、先生の胸を借りるつもりで(それだけ藤山先生を信頼しているということです)、思いきって臨みました。CBTで言うところの曝露(エクスポージャー)です。結果的には、予定調和ではなく、ぶっつけ本番で本音全開の、とても実りある対話ができたと思います。しかもそれがこのような素敵な著作になるとは! 何かに導かれるように藤山先生と精神分析に出会い、このような企画に参加させてもらい、それが本にまでなるとは! 生きていると面白いことがいっぱいあるなあ、と改めて感じます。この本が今後さらに何を生みだすことになるのかワクワクしてしまいます。
伊藤 絵美

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著者情報

藤山 直樹

1953年福岡県に生れる。幼少期を山口県の瀬戸内海岸で育つ。1978年東京大学医学部卒業。その後,帝京大学医学部助手,東京大学保健センター講師,日本女子大学人間社会学部教授,上智大学総合人間科学部心理学科教授を経て,現在上智大学名誉教授。東京神宮前にて個人開業,国際精神分析学会会員,日本精神分析協会訓練分析家,日本精神分析協会運営委員,日本精神分析学会運営委員,小寺記念精神分析研究財団理事長。 著訳書 精神分析という営み―生きた空間をもとめて,続・精神分析という営み―本物の時間をもとめて,精神分析という語らい(以上,岩崎学術出版社)心のゆとりを考える(日本放送出版協会)転移-逆転移(共著,人文書院),「甘え」について考える(共編著,星和書店)オグデン=こころのマトリックス(訳,岩崎学術出版社)サンドラー=患者と分析者[第2版](共訳,誠信書房)現代フロイト読本1・2(共編著,みすず書房)集中講義・精神分析 上・下,精神分析という語らい,認知行動療法と精神分析が出会ったら―こころの臨床達人対談(以上,岩崎学術出版社),落語の国の精神分析(みすず書房)フロイト=フロイト技法論集(岩崎学術出版社)他

伊藤 絵美

1990年慶應義塾大学文学部人間関係学科心理学専攻卒業。1996年同大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。現在洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長,千葉大学子どものこころの発達教育研究センター特任准教授,博士(社会学),臨床心理士,精神保健福祉士,日本認知療法学会幹事.日本ストレス学会評議員,国際スキーマ療法協会(ISST)正会員。

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