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臨床から心を学び探究する  新刊

齋藤久美子著作集

目次

刊行にあたって
第Ⅰ部 自我と自己・人格理解
第1章  「自我機能」と「現象的自己」との関係における統合作用について(1969)
第2章  人格の統合動機について─「自我動機」の観点からみた「自己」─(1981)
第3章  自我とパーソナリティ理解(1990)
第4章  人格理解の理論と方法(1991)
第5章  臨床心理学と発達理論(1995)
第Ⅱ部  発達理解1 乳幼児発達研究・精神分析的発達論・自己形成と関係性
第6章  同一化と人格発達(1988)
第7章  子ども理解の方法と理論─縦断的観察研究を通して─(1993)
第8章  セルフ・レギュレーションの発達と母子関係(1993)
第9章  ジェンダー・アイデンティティの初期形成と「再接近期危機」性差(1993)
第10章  「関係」恐怖の基型─自他交流の快苦ライン─(1994)
第11章  「かかわり合う」能力─心理力動的検討─(1998)
第12章  臨床心理学にとってのアタッチメント研究(2007)
第Ⅲ部  発達理解2 性アイデンティティ・アイデンティティ・青年期心性
第13章  性アイデンティティ(1983)
第14章  青年期後期と若い成人期─女性を中心に─(1990)
第15章  青年期心性の発達的推移(1990)
第16章  青年の「父親」体験と自己形成─臨床的検討─(2001)
第17章  青年における「境界」心性の位相(1990)
第Ⅳ部 臨床訓練・心理療法
第18章  臨床心理学の実践的学び(1994)
第19章  「初回」時面接の意義と難しさ(1996)
第20章  来談動機─臨床過程におけるその潜在的展開─(1998)
第21章  セラピストの「他者性」について(1985)
第22章  心理療法における「情緒」と「言語化」(2000)
初出一覧
あとがきに代えて─Authenticityへの感性─
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齋藤久美子(さいとう くみこ)
1935年 大阪府に生まれる
1958年 京都大学教育学部卒業
1963年 大阪市技術吏員(大阪市立児童院)に就任
1967年 京都大学大学院教育学研究科博士課程修了(教育学博士)
1967年 四天王寺女子大学文学部助教授に就任
1973年 京都府立大学文学部助教授に就任
1975年  ウィリアム・アランソン・ホワイト精神分析研究所へ特別研究員として留学
1984年 京都大学教育学部助教授に就任
1988年 京都大学教育学部教授に就任
1999年 甲子園大学人間文化学部教授に就任
現 在 京都大学名誉教授

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内容説明

「刊行にあたって」より抜粋
 本書は齋藤久美子先生(以後,齋藤と記す)の著作集であり,意外に感じられるかもしれないが初めての単著である。これまで多くの論文やエッセイを様々な学術誌や本の分担執筆として著しながら,齋藤の単著は周囲からすると不思議にないままであり,その見解をまとまった形で知る機会はなかった。今回『臨床から心を学び探究する』を上梓する機会に恵まれたことは,日本の臨床心理学,精神分析学,さらには発達心理学や社会心理学,精神医学を含め,心を探究する多くの領域において意味のあることではないだろうか。各分野の研究者や実践家の中で,本書のような齋藤の著書刊行を待ちわびた方は少なくないと思われる。

 本書における齋藤の探究を全体として見渡すと,第Ⅰ部では,臨床における根本ともいえる人格理解について,齋藤が真正面から取り組んできた著作が並ぶ。各部間にはっきりした年代的な順序性はないが,ここには1969年の論文を皮切りに1995年の著作まで5編が含まれている。他者理解と自己理解の両面を関連づけた人格理解のあり方と,自我ならびに自己のとらえ方の諸相を心理学と精神分析の両面から迫り,それらを人格の統合機能として把握し考察がなされている。
 第Ⅱ部では,分離・個体化や乳幼児研究など心の発達論を中心に据え,人と人とのかかわり合い・関係性の本質を見すえようと,個人内過程(自己調節)と対人関係過程(関係調節)との有機的な関連・正負の影響について,精神分析的な観点を中心に考察が深められている。1988年の論文から最も新しい第12章「臨床心理学にとってのアタッチメント研究(2007)」までの7編の著作が含まれている。
 第Ⅲ部では,思春期・青年期における第2の分離・個体化や,性・ジェンダーを含めたアイデンティティのありようを,精神分析理論だけでなくユング心理学の見解も交えつつ検討がなされている。ここでは社会の時代的な移り変わりも視野におさめられており,時に問いは問いのままとして残すといった齋藤の開放された姿勢が見て取れる。1983年から2001年までの5編の著作が含まれる。
 最後の第Ⅳ部では,これまでに触れられてきた人格理解や個人内過程・対人関係過程を視野に入れながら,臨床場面やその場に対峙するセラピストとクライエントのありようについて細やかに考察されている。心理臨床家であれば,読み進めながら自身の臨床体験をあれこれ思い浮かべずにはおられないであろう。1985年から2000年までの5編の著作が含まれている。
 なお,各章には初出時の年代を表題に付し,その当時の著者や社会文化的な背景が読み取れるようにした。また,当時の表現・文体をできるだけ変えずに掲載しており,例えば「精神分裂病」は「統合失調症」と改めていないことをご理解いただきたい。
 全体を通していえることは,いずれの論考も最終的には一般論ではなく,個別のクライエントの理解につながるような,正負両面を視野に含んだ濃厚な心の探究ということである。臨床に携わる者としては,深い森を導かれる中で様々な発見をするかのように,各々が出会っているクライエントや治療関係の理解につながる視点を,齋藤の文章のそこかしこに見いだすことになるのではないだろうか。
 第Ⅰ~Ⅳ部は独立しているが,読んでいただくとおわかりのようにテーマ横断的なところがあり,部の異なる章が相互に関連することも多々見られる。それゆえ,重層的で明細化された探究の道に,読み手は誘われていくのであるが,第Ⅰ部のテーマにもなっているまさに齋藤自身の「統合機能」ゆえに,読み手にも心理学の素養や心への多面的な関心が求められるのも確かである。書物とは,読み手と書き手がある種の格闘をする必要があり,それによって本を読むことが創造的な体験になると考えられるが,本書はまさに読み手に質の高い格闘を求めるといえるだろう。各部に概説を設け,各章に紹介を付したのは,読み手の道標になることを期待し,格闘への動機づけになればとの思いからである。そうした役割が果たせていることを,編集のまとめ役として心から願うところである。(角田 豊)

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