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発達障害・被虐待児のこころの世界  新刊

精神分析による包括的理解

目次

はじめに
謝 辞
序 文 マーガレット・ラスティン
理論的概観──情緒的経験の理解 アレックス・ダビンスキー
プレイセラピーの技法──正気と狂気の狭間で:プレイセラピーの一セッション スーザン・リード
第Ⅰ部 精神病と性的虐待
第1章 安全な場所を見つけること──4歳の子どもが性的虐待から回復すること デボラ・サスマン
第2章 思考する空間をつくることの困難さ──7歳の女の子とのセラピー リンダ・ミラー
第3章 自己が生き延びること──16歳の女の子がよい対象を探し求めること クリソ・アンドリュー
ディスカッション──情緒的剥奪経験を持つ3人の女の子の内界に性的虐待がもたらした衝撃についての記録 アレックス・ダビンスキー,ヘレン・ダビンスキー
第Ⅱ部 精神病と発達遅滞
第4章 こころの初期過程──6歳の女の子とのサイコセラピー アン・ウェルズ
第5章 象徴化とアイデンティティの感覚 ダフネ・ブリッグズ
第6章 「僕はここにいるよ!」──自閉的特徴を合併した発達遅滞の少年の自己と対象について サラ・ランス
第7章 何も学ぼうとしなかった男の子 アレックス・ダビンスキー
ディスカッション マリア・ロード
第Ⅲ部 複雑化した精神病状態
第8章 精神病と自閉症──サイコセラピーにおいて進展する統合失調症と倒錯,躁うつ病状態 ジュヌヴィエーヴ・ハーグ
第9章 ジェレミーと食いちぎられた屋根 ヘレン・ダビンスキー
第10章 「お化けがやって来る」──9歳の男の子の絶滅恐怖 S. M.シャーウィン‐ホワイト
第11章 バラバラになること──自閉症的またはスキゾイド的解決方法 マリア・ロード
第12章 精神病患者の堅さと安定性──サイコセラピーにおいて現実に直面する妨げとなるものについての考察 
マーガレット・ラスティン
ディスカッション マーガレット・ラスティン

あとがき──「私はがらくたじゃない,人間なんだ」 マーガレット・ラスティン
用語解説 マリア・ロード
文 献
解 題
監訳者あとがき
索 引
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木部則雄(きべ のりお)
1983年 京都府立医科大学卒業
同 年 聖路加国際病院小児科
1986年 帝京大学医学部付属病院精神神経科
1991年 タヴィストック・クリニック児童家族部門に留学
現 職 白百合女子大学 文学部 児童文化学科 発達心理学専攻教授
著訳書 クラインとビオンの臨床講義(共訳 岩崎学術出版社,1996)
クリニカル・クライン(共訳 誠信書房,1999)
入門メルツァーの精神分析論考(共訳 岩崎学術出版社,2005)
こどもの精神分析(岩崎学術出版社,2006)
こどものこころのアセスメント(監訳 岩崎学術出版社,2007)
自閉症の精神病理への展開(監訳 明石書店,2009)
母子臨床の精神力動(監訳 岩崎学術出版社,2011)
こどもの精神分析Ⅱ(岩崎学術出版社,2012)

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内容説明

【解題より抜粋】原著のタイトルは『Psychotic States in Children』であり,これに忠実に訳せば「こどもの精神病状態」である。しかしながら,精神病という用語は統合失調症や双極性障害などの成人の精神病への連想が強く,誤解を招きかねないと思い,本書の内容に添って「発達障害と被虐待児のこころの世界」とした。Psychotic Statesという用語の本来の意味は著しく混乱したこころの状態であり,程度の差はあるものの殆どの発達障害児や被虐待児の心的世界を示している。ダビンスキーは精神病状態を情緒的経験を理解する際の深刻な混乱と定義し,それは自我が耐えることのできない心的苦痛の反応であるとしている。これが恒常的になると,パーソナリティの成長は深刻に阻害され,精神疾患に至るとしている。
 しかし,現代では自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder)などの発達障害を明示した用語を使用し,PsychosisやPsychoticという用語は殆ど使用されなくなっている。ウィニコット(1972)は小児統合失調症やシゾイド・パーソナリティという用語を頻回に用い,マーガレット・マーラー(1952)は『自閉精神病と共生精神病』,そしてタスティン(1971)は『自閉症と精神病』というタイトルの著作を刊行している。今や行動や症状を中心とした操作的診断基準が繁栄し,生育歴や発病に至る病歴,心的世界を重視する精神分析,力動的精神医学の衰退とともに,Psychosisは過去の用語となってしまったような様相である。ウィニコット(1966)は英国の自閉症協会での講演で,自閉症という用語は包括的であり,医学的な教育には有益であるが,個々の子どもたちの心的世界を理解することにはきわめて不適切であることを語っているが,本書は発達障害や被虐待児と総括されている子どもたちの混乱したこころの世界の詳細を個々に探索して,情緒的に理解することの重要性を示唆している。
 自閉スペクトラム症の子どもや大人の人を数多く診察した臨床家であれば,それは十人十色,百人百色であることを実感しているであろう。そうした子どもたちの心的世界は時にほとんど,詳細に検討すれば僅か一部であっても著しい混乱した心的世界を垣間見ることができる。子どもの時から継続的に診療していくと,この僅かな部分は思春期になって一気に表面化して,明らかな精神病として発症することもある。現在,子どもの臨床に関わっている多くの専門家はこうした精神病世界を知らない,あるいは無視しているように思う。この無知と否認は子どもが愚かな無邪気な存在であり,広いプレイルームで身体を動かして遊べばよくなるという子どものこころの世界を脱価値化した妄信を基盤としている。本書は真摯に子どもの心的世界を吟味することによって,精神病の世界に苛まれた子どもたちを救出した語りの結集である。本書は性的虐待,発達遅滞,虐待と発達障害の混在した3部から構成され,そこには12症例が記述されている。これは被虐待児,発達障害児と総括されている子どもたちであっても,個々の子どもは総括するこのできない多彩な精神病という心的世界に住みついており,セラピストがそのラビリンスのような精神病世界を情緒的に理解することによって精神分析的な治療が展開することが記述されている。この12症例を系統的に整理して記述することはできないために,各部にそれをまとめる意味としてディスカッションの章が設けられている。これによって,複雑な症例の理解を援助するように試みられている。

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