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児童福祉施設の心理ケア  新刊

力動精神医学からみた子どもの心

目次

はじめに
第一部  児童福祉施設における心理ケアの実際
──力動精神医学的コンサルテーションの経験から
1 なぜ児童福祉施設に関わることになったのか
2 児童福祉施設の現状
3 児童福祉施設の子どもたちの心の発達
4 児童福祉施設の子どもたちの心の病理
5 児童福祉施設に対する児童精神医学的コンサルテーション
6 児童福祉施設における力動的心理療法の実際
7 終わりに
第二部 不適切な養育と精神病理
8 児童養護施設における入所児童の思春期と乳幼児体験
9 成人期の精神病理と乳幼児期体験
10 児童養護施設におけるメンタルケアの現状
第三部 事例と助言
11 治療の難しい児童虐待事例
12  終わりの見えない戦いの中での希望について
13  入れ子細工の苦しみの中で生きる意味を見いだすこと
付 録 EBMと症例研究
14 医学研究における数的研究と症例研究の相補的関係

後 書 き
初出一覧
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生地新(おいじ あらた)
1957年 山形市で生まれる
1975年 宮城県立仙台第一高等学校卒業
1981年 山形大学医学部卒業
1986年 山形大学大学院医学研究科博士課程修了
1986年 山形大学医学部附属病院精神科神経科助手
1990年 山形大学医学部附属病院精神科神経科講師
2001年 日本女子大学人間社会学部心理学科助教授
2007年 北里大学大学院医療系研究科発達精神医学教授
2014年 北里大学附属臨床心理相談センター長(兼任)
2015年 日本精神分析学会会長
専 攻 児童青年期精神医学・精神分析的精神療法

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内容説明

【はじめに】より
 不適切な養育環境に置かれている子どもたちやいわゆる「虐待」を受けている子どもたち対して社会の関心が高まったのは、わが国では一九九〇年代になってからのように思う。そして、「児童虐待の防止等に関する法律」が施行されたのは二〇〇〇年のことである。さらに、児童養護施設などの児童福祉施設について、テレビのドキュメンタリーやドラマやアニメの素材として頻回に取り上げられるようになったのは、二十一世紀に入ってからのような気がする。
 しかし、考えてみると、欧米の文学の世界では、もっと昔から「孤児」が活躍していた。「オリヴァー・ツイスト」(一八三八)のオリヴァー、「フランダースの犬」(一八七二)のネロ、本書でも取り上げる「家なき子」(一八七二)のルミ(レミ)、「アルプスの少女ハイジ」(一八八〇)のハイジ、「赤毛のアン」(一九〇八)のアン、「あしながおじさん」(一九一二)のジュディ、「秘密の花園」(一九一一)のメアリーなどが思い浮かぶ。このうち孤児院出身という設定になっているのは、アンとジュディである。オリヴァーは大人も収容される「救貧院」で育った孤児であった。レミは幼児期に孤児院に入れられそうになったが、その後、旅芸人のビタリスに売り飛ばされる。これらの物語の中で、活躍するのはなぜか女の子が多い。ほとんどの作品が十九世紀末から二十世紀初頭に書かれたものである。二十世紀の半ば以降になると、私たちは、ミュージカルや映画、アニメなどの形で、繰り返し孤児たちの物語に出会ってきた。私たち、大衆は、孤児という設定になぜか引きつけられてきたのである。ただ、ネロを除けば、それらの物語の多くは、力強く、希望を失わずに生きる孤児たちが描かれていて、たいていはハッピーエンドである。レミは、最後にお金持ちの実母に出会う。ジュディは青年実業家と結婚するし、アンは医師のギルバートと結婚する。産業革命や民主主義、そして資本主義の発展とこれらの物語は関連しているように思われる。当時の人々は、子どもの貧困や不適切な養育に関心を持ちながらも、そうした問題は右肩上がりの経済の中で解決していくだろうという楽観があったのかもしれない。そして、楽観的になることで、そこにある悲惨で残酷な現実を直視せずに済んだのかもしれない。
 二十世紀後半の日本の漫画・アニメの世界でも孤児は活躍する。「タイガーマスク」(一九六八)の伊達直人は、孤児院「ちびっこハウス」の出身である。数年前に伊達直人の名前で児童養護施設にランドセルなどを贈ることが流行した時期がある。「あしたのジョー」(一九六八─一九七三)の矢吹ジョーも孤児である。これらの物語も成長物語ではあるが、ストーリーは単純ではなく、自分の内なる悪との戦いも描かれており、最後は破滅的なエンディングへ向かう。
 精神科医になってからの私が児童虐待について改めて意識させられたのは、一九八三年に出版されたアリス・ミラーの「魂の殺人」という本と一九八七年にリリースされたスザンヌ・ヴェガの「ルカ」という歌である。「ルカ」をスザンヌは静かに淡々と、しかし思いをこめて歌い上げるのだが、私は「このまま手をこまねいていてはいけない」という気持ちにさせられた。二十一世紀初頭の今、私たちは、再び、子どもの貧困や不適切な養育に向き合うことになった。そして、私たちは、楽観でも悲観でもない立場で、ありのままの、そして様々な子どもたちに出会い、私たちが素手でできる支援を考えていくという課題を与えられているのだろう。温暖化などの環境の悪化やグローバル化や貧富の差の拡大という問題と、この課題とは連動しているのだと思う。右肩下がりの反時計回りの世界で、私たちがこの問題に取り組む時、個人として生きている意味や人類の文明の意義について考えざるを得ないだろう。この本で、私は、そういう大きな問題に真正面から取り組んでいる訳ではない。狭い専門分野で仕事をしている一人の個人として、子どもたちの心の問題に取り組みながら、私が学んだこと、考えたこと、気づいたことを備忘録として残したいという気持ちが、この本の執筆の一つの動機である。
 この本は、考えるための素材を提供するもので、具体的なスキルや包括的な理論を提示するものではない。特にこれから、この分野の仕事に入ろうとする精神科医、臨床心理士、福祉職の方々を想定して書いた本である。児童福祉の現場に近いところで仕事をしてきた児童精神科医の書いた本として、現場で苦闘を続けている皆さんと、そして、もしかしたら子どもたちにも、多少なりとも参考になり、役立つことを期待している。

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