ホーム > 狂気の軌跡

狂気の軌跡

構造論的歴史主義の視座

狂気の軌跡
著者 森山 公夫
ジャンル 精神医学・精神医療
出版年月日 1988/09/20
ISBN 9784753388097
判型・ページ数 A5・632ページ
定価 6,380円(本体5,800円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに
第一篇 ナチュラリズムの時代と現代の始まり
第一部 思想・芸術における革新
第一章 思想
第一節 ニーチェ
デュオニソス的生と神の死/実証(験)主義とニヒリズム/ニヒリズムの超克と永劫回帰
第二節 マッハ
要素(感覚)一元論=根源現象論と函数的・機能的連関/思惟経済論=適応と「模写」/時空性の変化と力学的世界観の崩壊
第三節 パースとプラグマティズム
第四節 まとめ
第二章 絵画
第一節 一八五〇―六〇年代とリアリズムの展開
リアリズムの確立/リアリズムの転調
第二節 印象主義革命の進行
印象主義の確立/印象主義の転調/印象主義革命の意義
第三章 文学
第一節 一八五〇―六〇年代の「リアリズム」
一八五〇年代とリアリズム文学の確立/一八六〇年代とリアリズム文学の転調/現代詩の始祖ボードレール
第二節 自然主義
自然主義文学の確立/自然主義文学の転調―「デカダンス」の時代/現代詩の出発

第二部 経済――現代経済への離陸
第一章 歴史的発展と「景気循環」
第二章 流通革命と重工業の興隆
第一節 産業資本主義の確立と展開
第二節 未曾有の好況
第三節 「流通革命」と商品化の進展
運輸・通信革命/商業革命/金融革命
第四節 重工業の興隆
第五節 国内統一市場の完成と農業の繁栄
第三章 資本主義の構造変化i株式会社制度と重化学工業の確立
第一節 「大変革」の開始と「大不況」の到来
第二節 重化学工業の基軸化
第三節 株式会社の普遍化
第四節 世界統一市場の成立と組みしかれる農業
第五節 「限界革命」の登場と「近代経済学」の誕生

第三部 政治
第一章 「社会」と政治
第一節 「社会」の構造
第二節 近代の政治構造
第二章 名望家支配―立憲君主体制の崩壊と「現実政治」―国民国家主義の登場
第一節 国内的諸階級・階層の分立と国際的ナショナリズムの矛盾
一八四八年革命の構造/一八四八年革命後の社会変動―「諸階級・階層の分立と大衆社会の胎動」/一八四八年革命後の国際世界―「国民国家主義」の角逐
第二節 自由―国家主義政策と現実政治
第三節 中央集権化の進展と大衆民主主義への胎動
「国家の独立」と監督行政の登場/大衆民主主義への胎動/国益外交と軍隊の現代化
第三章 階級社会の顕現と国民国家の成立
第一節 階級対立と国家間抗争の顕現
パリ・コミューンの乱/階級社会の成立と「集団」の登場/「列強」の登場と「力による均衡」
第二節 国家―団体主義(コレクティヴィズム)政策の登場
第三節 屹立する国家―「大衆民主主義」・「行政国家」・「兵営国家」の確立
男子普通選挙制の成立と大衆統合政党の登場/「行政国家」の成立―「強制」と「中立」の原理の成立/徴兵制の確立と軍国主義の成立

第四部 法i「市民法」から「社会法」へ
はじめに
第一章 市民法の解体と社会法の胎動
第一節 民事法と「取引の安全」の法理の確立
第二節 刑事法における「累進制度」の導入
第二章 社会法の登場
第一節 民事法とコレクティヴィズム
第二節 刑事法における改善主義・社会防衛主義の登場
第三節 行政法の成立と憲法の変質

第五部 自然科学と数学――古典力学的世界観からの離陸
はじめに
第一章 一八三〇・四〇年代におげる諸科学の動向
第一節 一八三〇年代と「近接作用論」=リアリズムの登場
第二節 一八四〇年代の革新
第二章 リアリズム科学の開花と現代科学の開幕
第一節 物理学とエネルギー概念の成立
第二節 化学における分子構造論の成立
第三節 生物学の開花と生気論の放逐
第四節 数学の現代的変貌
第三章 実験主義の進撃と「場」の理論の成立
第一節 場の理論の確立と熱分子運動論
第二節 周期律の発見と立体化学の成立
第三節 微生物学の確立と進化論の進撃
第四節 集合論革命と幾何学の転換
実数論の成立から集合論へ/幾何学の再編と空間概念の変貌/確率・統計学の興隆と蓋然的世界の出現

第六部 精神医療
はじめに
第一章 一八三〇・四〇年代の精神医療―転換期としての一八四〇年代
第一節 欧米諸国における精神衛生法の成立とマクノートソ・ルール
第二節 無拘束運動・州立保護院設立運動・可治性への熱狂
コノリーの無拘束運動/精神病保護院建築様式の確立―「保護」から「治療」へ/保護院設立運動の展開―ドロシア・ディックスの活躍/可治性への熱狂
第三節 精神医学とリアリズムの導入
第二章 一八五〇・六〇年代の精神医療
第一節 保護院病床数の増加
第二節 「無拘束」の浸透度と保護院の肥大化
第三節 精神医学の変容
第三章 一八六七―八六年の精神医療――精神医療・医学の全面的旋回
第一節 貧困狂人の州立保護院への集中
第二節 「無拘束」の浸透・変質と州立像護院の巨大化
第三節 精神医学の神経生理学的旋回と分類の根本的転換・可治熱の消腿
精神医学の神経生理学的方向への旋回/精神医学の対象の拡大と分類の抜本的変化/可治性への熱狂の衰退/精神医学の社会的認知―病院精神医学から大学精神医学へ

(準備中)

このページのトップへ

内容説明

この問いの後景 笠原 嘉
これは文字通りの労作である。精神科医の手になる最近の注目するに足る仕事の一つであろう。何よりも目次がそのことを示している。第一部思想・芸術、第二部経済、第三部政治、第四部法、第五部自然科学と数学、第六部精神医療といった具合である。取り扱う対象が精神現象だからであろう。精神科医は一般に、医学の枠組みをこえた論議を展開したがる傾向をもつが、私の知る限り人文諸科学へとこれだけ目をくばった書物はわが国になかったのではないか。しかも、多くの文献が丁寧に引用されている。著者の学識に敬意を表したい。明敏な読者はすでにお察しのように、表題はフーコーの「狂気の歴史」をふんでいる。「……狂気のありのままの野性状態は、けっしてそれ自体としては復原されえないので、狂気を捕えている歴史の総体――さまざまな概念、さまざまな制度、法制面と治安面の処置、学問上のさまざまな見解――の構造論的な研究をおこなう」必要があるという指摘をふまえている。おそらく著者のオリジナルな見解なのであろう。「精神医療は近代に入ってからほぼ百年を単位として大きな変動を示しており、その百年も二〇年単位のより小さな変動の集積として現われる」。そして著者は全体を二つに分ち、第一篇「ナチュラリズムの時代と現代の始まり(一八六九~一八八六)」と第二篇「新理想主義の時代(ネオ・イデアリズム)と現代の祖型確立(一八八六~一九〇五)」とし、それぞれの二〇年における思想・芸術・経済・政治・法・精神医療のからみを論証する。最後になったが、著者は丁度二〇年前の反乱の季節に「目くるめく時をもった」一人である。この著名な反精神医学のリーダーが、あの反乱は何であったかと問うところがら本書は生れた。前景は精神医療への問いだが、後景は生への問い、生の根元としての歴史への問いである、という。このあたりに本書の魅力の見逃しがたい源泉を見出される読者も少なくないはずである。

このページのトップへ

著者情報

森山 公夫

1934年長野に生まれる。1959年東京大学医学部卒業。1960年東京大学医学部精神医学教室に所属。現職東京大学医学部精神神経科講師。著訳書「現代精神医学解体の論理(岩崎学術出版社),「心とやまい」(三一書房),ビンスワンガー著「うつ病と躁病」(みすず書房,共訳)

このページのトップへ