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完訳 成熟過程と促進的環境

情緒発達理論の研究

完訳 成熟過程と促進的環境

長く親しまれてきた主著の一つを,近年の研究の進展を踏まえて訳し直したものであり,未収録の二編も含めた完全版となっている。

著者 D.W.ウィニコット
大矢 泰士
ジャンル 精神分析
出版年月日 2022/10/26
ISBN 9784753312115
判型・ページ数 A5・328ページ
定価 6,050円(本体5,500円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

編集おぼえがき
序文
謝辞

第1部 発達に関する論文
 1.精神分析と罪悪感(1958)
 2.一人でいられる能力(1958)
 3.親‐乳幼児関係の理論(1960)
 4.子どもの発達における自我の統合(1962)
 5.健康なとき,危機のとき,子どもに何を供給するか(1962)
 6.思いやりの能力の発達(1963)
 7.個人の発達のなかで依存から独立に向かって(1963)
 8.道徳と教育(1963)

第2部 理論と技法
 9.精神分析に対する子どもの直接観察の寄与について(1957)
10.潜在期における児童分析(1958)
11.分類について:精神分析は精神医学的分類に貢献するか(1959-1964)
12.「本当の自己」と「偽りの自己」に関連した自我歪曲(1960)
13.紐:コミュニケーションの技巧として(1960)
14.逆転移(1960)
15.精神分析的治療の目標(1962)
16.クラインの貢献についての個人的見解(1962)
17.コミュニケートすることとコミュニケートしないこと:いくつかの対極の研究へ(1963)
18.児童精神医学のための養成訓練(1963)
19.性格障害の心理療法(1963)
20.こころの病気をもつ人を担当するということ(1963)
21.乳幼児期の成熟過程からみた精神医学的障害(1963)
22.青年期の積極的心理療法をおぎなう病院でのケア(1963)
23.乳児の世話,子どもの世話,精神分析的設定のそれぞれにおける依存(1963)

文献
解説
索引

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内容説明



本書には,1977年に刊行された牛島定信による先駆的訳業『情緒発達の精神分析理論』(二つの章が割愛されている)があり,その訳文の自然で親しみやすい語り口とともに広く読まれてきた。その後,50年近くが経過し,世界的にウィニコット研究が進展するなかで,この本の新たな翻訳を求める声を多くいただいた。今日,ウィニコットの紹介が多数の書籍等を通じて広く行われるようになっている状況では,ウィニコット自身がどんな言葉を使ってどんなふうに語っていたかに関心が向けられることが増えているように思われ,その意味でも訳し直すことの意義は大きいと考えて,この機会に,以前は割愛されていた二つの章も加え,新訳を提供することとなった。今回は牛島先生のお名前を併記することは叶わなかったものの,新訳とはいえ牛島先生の先駆的な訳業がベースとなっていることは確かに申し添えておきたい。
 あらためて述べると,本書は小児科医で精神分析家のDonald Woods Winnicott(1896–1971)による二冊目の論文集“The Maturational Processes and the Facilitating Environment: Studies in the Theory of Emotional Development”(1965年)の全訳である。原題を直訳すれば『成熟の諸過程と促進する環境:情緒発達の理論の諸研究』となろう。簡明さを優先して今回のような邦題としたが,このように原題では「成熟過程」が複数形であり,成熟を決して単一のレールの上をいくような過程とは見ていないことが分かる。
 本書は,彼が1957年から1963年までのあいだに,主として学会や専門家向けの講演などで発表した23の論文を集めたものである。この時期のウィニコットは60歳代の円熟期にあたり,健康状態も良好で,以前にもまして多数の講演や著述を行っている。とくに米国には何度も講演旅行に行っており,本書を構成する章のうち実に三分の一は米国各地の精神分析インスティテュート等での講演によるものである。また,この時期は彼が英国精神分析協会の会長を最初につとめた任期と二回目につとめた任期の間でもある。1940年代頃までの彼の論文には,どちらかといえば臨床から得た発想を生のまま記述したような醍醐味を感じさせるものが多いのに対して,1950年代から60年代にかけては,同様に臨床的ではありながらもアイデアをもっと一般化し敷衍して述べようとする姿勢が強まっているように見える。とくに本書には,それまでも彼の著作の中で散発的に言及されていた発想(「抱えること」,「偽りの自己」など)が,はっきりと正面から取り上げられた論文が収められ,彼の主著の一つともなっている。(「解説」より)

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著者情報

D.W.ウィニコット

ウィニコットは医者としての経歴を小児科医として始め,小児科学の身体的側面に関心をもち続けながら,それ以上に児童心理学の研究に打ち込みました。人間の発達の理解に対する彼の貢献は,母親や赤ちゃんや幼児についての広範囲な臨床的仕事に基づいたもので,国際的に知られ評価されています。ウィニコットはゲンブリッジのジーザスカレッジで医学を学び,戦後のロンドンのセント・バーソロミュー病院で働きました。セント・バーソロミュー病院での研修医時代を除いては,彼の病院勤務はすべて子ども病院でした。ウィニコットは40年以上児童精神医学や精神分析を実践し研究し,そして英国精神分析学会の会長に選出されました。彼は精神分析や医学の雑誌に多くの論文を寄稿し,またこの分野のさまざまなグループ,つまり教師,助産婦,両親,ソーシャルワーカー,治安判事,医師,そしてまた精神分析家や心理学者といった専門家に,広く子どもの発達について講演しました。よく知られている著書には,「小児医学から精神分析へ」「子ども」「家族と外的世界」そして「遊ぶことと現実」などがあります。

大矢 泰士

1963年生まれ,東京大学文学部,教育学部教育心理学科卒業,東京都立大学大学院人文科学研究科心理学専攻博士課程単位取得。専攻 臨床心理学,精神分析学。現職 東京国際大学大学院臨床心理学研究科准教授,青山心理臨床教育センター臨床心理士。

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